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a-ls 時計(Mechanical Watch Users News) blog.

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ツァイトヴェルク・ミニッツ・リピーター考察【サウンド編】

思わぬ【中編】の降臨に(笑)、なんかもう【後編】が急かされているようで、
とりあえずですが、【サウンド編】という括りで、ザックリまとめちゃいました。


というわけで、ここではミニッツ・リピーターの本分である“音”の領域に触れていきたいと思いますが、その前に、ランゲがいつ頃からこのミニッツ・リピーターの製作に取り掛かったのかを確認しておきましょう。

ランゲの時計に関して、通常の場合はキャリバー番号から製作着手年を推測できるのですが、このリピーターのキャリバー番号はL043.5(=2004年に製作着手した3番目のキャリバーの5つ目のヴァージョン)、つまり、L043.1であるツァイトヴェルクをベースキャリバーに、その5つ目ヴァリエーションという扱いになっているため、正確な開発開始年がわからないのです。整理しますと、「L043.x」というツァイトヴェルクのベースキャリバーからの派生の関係は以下のようになっています。
L043.1 ツァイトヴェルク(2009) ツァイトヴェルク・ルミナス(2010)
L043.2 ツァイトヴェルク・ストライキングタイム(2011)
L043.3   ??
L043.4 ツァイトヴェルク・ハンドヴェルクス・クンスト(2012)
L043.5 ツァイトヴェルク・ミニッツ・リピーター(2015)

3つ目のヴァリエーションが世に出ていない“ヌケ番号”となっていますが、こうした枝番が抜けるケースは非常に稀なので、これが何を意味するのか現段階では不明です (笑)。仮説としては・・・、
a)製作中止されたツァイトヴェルク・モデルがあった。
b)当初はL043.1に振り分けた「ルミナス」を、後になって(社内的に)枝番扱いしたため、欠番が生じた。

と、まぁ・・・想像できるのはこんな感じでしょうか。
※どなたか枝番が抜けた他のモデルでのケースをご存知の方は教えていただけると勉強になります!

a)の場合、その“抜け番モデル”が、将来製品化される可能性はまずないと思われますので、どういう機構のツァイトヴェルクであったかは、永久に謎です。
ただ仮説として、それがミニッツ・リピーターの“ボツ・ヴァージョン”だったりした場合、そのキャリバー分の開発費なども今回の作品に加算され、その定価を押し上げている一因とはなったでしょう、ま、これはあくまで仮説ですが・・・。


さて、だいぶ寄り道しましたが、このリピーターの不明な開発年について、SIHH会場で開発陣に質問したところ、
「4年前」という回答を得ました。
ということは2011年、それはまさにツァイトヴェルク・ストライキングタイムスが発表された年です。
ゴング&ハンマー搭載モデルの成功を確実なものとして、その次段階として、ついに満を持してミニッツ・リピーターに取り掛かったことがわかります。



ツァイトヴェルク・ミニッツ・リピーター考察【サウンド編】_b0159560_19215826.jpg

ここら辺から話は本筋になってきますが、普通に考えれば、先進機として世に出したツァイトベルク・ストライキングタイムスのハンマー&ゴングは、時打ち時計としても安定していたわけですから、そのまま継承するのが自然でしょう。

しかし、ストライキング・タイムとミニッツ・リピーターのハンマー&ゴングの形状を比べると、かなり異なっているのです。

下の画像をご覧ください。
左がストライキング・タイム、右がミニッツ・リピーターです。
片や真円に見えますが、新作の方はまるで鍵穴を覗いた形のように湾曲しています。この形はあくまでも上から見たもので、実際のゴングは高音と低音の2本が高低差をつけて取り付けられていて、先端の一部分が重なっている見えていることになります。
ツァイトヴェルク・ミニッツ・リピーター考察【サウンド編】_b0159560_16354012.jpg
この形状に変えざるを得なかった原因は、リピーター機能をコンパクトに収めるためと思われます。
先のブログ【前編】でも触れましたが、ストライキング・タイムからのサイズ・アップは極力抑えたかったことにも関係してくると思われます。

では、このゴングの形状変化はサウンド面にどのような影響を持つのでしょうか。
デ・ハース部長に尋ねましたところ、
「いろいろな試験を行い、(音の)波形や数値を計測したが、ストライキング・タイムのゴング(=円形)と全く変わらないことがわかった。」と答えていただきました。
しかし音の心臓部分であるゴングの形状が、スペースの関係で大きく変更されているのは、良い音を出すという観点からはちょっと不安ではあります。
これはあくまでもイメージですが、真円のほうが音は均等に響くような気もします。ただトライアングルのように角を持つ打楽器もあるので一概には断定できません。

では、音に関して、ストライキング・タイム以上の、ミニッツ・リピーターならではの工夫はないのでしょうか?
そこでようやく、【前編】から持ち越した、ツァイトヴェルク・ミニッツ・リピーターが獲得した6番目の特許が登場します。
「ゴングの取り付け方に関する特許」です。
これはこのリピーターのプレスシートを紹介した時にも書いたのですが、ちょっと引用します。
「まだわたし自身の理解度が足りていないので充分な説明ができるかどうか不安ではありますが、どうやら、文字盤上に可視化されたゴングの、その終端部分は機械側に深く潜り込んでいて、ケース全体を”増幅器として鳴らす”役割に貢献している…という特許のようです。」

最近はこのツァイトヴェルク・ミニッツ・リピーターのように、ゴングを文字盤側から可視化できるモデルがいくつか発表されています。
たとえばオーデマピゲの「ミレネリー・ミニッツ・リピーター」(下の画像参照)などもそうですが、
ツァイトヴェルク・ミニッツ・リピーター考察【サウンド編】_b0159560_11174661.jpg

そのタイプの時計を注意して見ていくと・・・、
たとえばこの「ミレネリー」の場合は、表の時間表示サイドと裏の機械サイドを仕切る文字盤などの要素を小型化することで、表と裏の境いを取り払っています。
この機構が意味するところは、ケース全体をゴングが振動する“鳴り”の空間とする、そのための工夫としてのゴングの可視化でもあるのです。

では文字盤によって表と裏の空間がほとんど仕切られている時計では、表側と裏側、どちら側にゴングがあったほうが振動増幅スペースとして大きい、すなわち有利かという話になりますと、たいていの時計の場合、裏のスペースの方が表のスペースよりも広いはずです。とはいえ、ツァイトヴェルク・ミニッツ・リピーターのゴングを裏側スペースに移動した場合、数ミリ規模のケースのサイズ・アップはまず避けられませんし、機構上もたいへん難しいでしょう。

そこで考えられたのがこの「ゴングの取り付け方」です。その意味するところは、文字盤側に見えるゴングの末端を機械側まで潜らせることで、時計ケースの表裏両側の空間を音の増幅スペースとして利用するという”発明”なのではないでしょうか。

ところが、会場で実際に音を鳴らしたとき、この特許の最も際立った点は、実は音ではなく、ケース全体に及ぼす振動そのものでした。
極端な話、もし耳の不自由な方がこの時計を腕につけてリピーターを鳴らしたとしても、その打刻数を数えることで容易に時間を知れるであろうほど、確実な振動が腕に伝わってきました。これはこの特許の思わぬ副産物と言ってもいいかもしれませんが、この特許が音に及ぼす利点は、SIHHでのプロト段階では、まだ明確に感じ取ることは正直できませんでした。
この点については、デリバリー時までの更なる進化が期待されます。

つまり、ミニッツ・リピーターの最重要部分である“サウンド面”について、ツァイトヴェルク・ミニッツ・リピーターは、前身機であるストライキング・タイムの真円系ゴングの経験が活かせない、未知の形状のゴングという変化を受け入れなければならなりませんでした。また、振動スペースの狭い文字盤側にゴングがあることをデメリットにしないよう、新しいゴングの取り付け方を“発明”もしました。

それでも、現時点ではまだこの時計のサウンド領域が完璧ではないことは首脳陣も理解していますので、これらのデメリットを克服すべく、いまだいくつかの点を改良中ということなのです。
ただネガティヴ要素だけというわけではないです。もしかしたら、ゴングの素材や構造、ハンマーの形状といったドラスティックな変更が加えられて、音質や音量が劇的に改善される可能性だってないとは言い切れません。

ですので、現時点でこの時計の”サウンド面“での明らかな長所を挙げるとするならば、ゴングとゴングとのテンポ感とそのタイミングです。世の中のリピーターには、重音時にいきなり早くなったり、音が切り替わるときのテンポ感が気持ち悪かったりなど、ハンマー動作に問題を感じるモデルも少なくありません。
2年前に「グランドコンプリケーション」のサウンドを聴いた方であれば、より具体的に納得できるのではないかと思いますが、ランゲのこの打刻のタイミング感は、その分野で現在最も評価の高いパテック・フィリップのリピーター音と比べても、遜色ないレベルと言えます。
あとは音量の問題をランゲがどこまでブラッシュアップできるかが、こと時計の進化を左右する大きなカギとなることでしょう。


もうひとつの要素として、「ケース素材」というテーマがあります。
今回のツァイトヴェルク・ミニッツ・リピーターはPTケースですが、『何故PTを選んだのか』。もっと言えば、『ケース金属によって“鳴り”に違いはあるのか』、という話にも至るのですが、よく「PGが一番良い」とか「SSだと音が大きい」とか「PTは鳴らない」とか、したり顔で語る方がいらっしゃいますが、自分の経験から得た結論を言うならば、この手の論争はほとんどナンセンスで、リピーター音に影響する要素において、ケース素材の占める部分はさほど大きくないのです。同じモデルの同じケース素材のリピーターであったとしても、2個の時計は絶対に同じ音ではありません。こうしたリピーターの個体差の話については、またいつかリピーター全般について書く機会があれば、その時にじっくり触れてみたいと思います。


さて、こんなに書いてきましたので、そろそろ現時点での結論めいたものをまとめなければなりません(笑)。

どんなに壊れにくいリピーターであろうとも、音がいまひとつでは何の意味もありません。
以前の「SIHH雑感」のブログに書いたこともありますが、たとえばディスクを24時間表示にして、24時59分とかには、とてつもない数の鐘が鳴るようにする(実用場面では数えるのが面倒なケースもあるので、24時間と12時間を切り替えることができるともっと良いですね)とか(笑)、なにか特別なユーザー・サービス機構でもあれば別ですが、いわゆるシンプル・リピーターであるこのモデルの場合、“音がすべて”となりますので、現時点でこの時計に正しい評価を下すことはまだできないのではないかというのが、今の正直な感想です。
ですから、デリバリーまでの間に、特にサウンド面に関してランゲのより一層のブラッシュ・アップが望まれますし、もしその”最終決定の音”を聴くことができた時、その時にやっとツァイトヴェルク・ミニッツ・リピーターの最終的なジャッジを下したいと思います。





以上、ここまで何回かに分けて書いてきた、プレスシート雑感機能編、そしてこのサウンド編の記事を踏まえたうえで、
いま一度、ツァイトヴェルク・ミニッツ・リピーター動画をじっくり見てみてください。

一挙掲載しておきます。



















次は、(音を聴くことができて、そのうえで書く気になったらの話ですが)、
デリバリー開始後の、「ツァイトヴェルク・ミニッツ・リピーター【完結編】」にて、またお会いできますことを楽しみにしています!




長々と、ご清聴ありがとうございました。















by A-LS | 2015-03-05 16:42 | ランゲ&ゾーネ