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「グランド・ランゲ1ムーンフェイズ」検証編

ちょっと落ち着いてきましたので、新作グランドランゲ1ムーンフェイスを検証してみたく思います。
まずはプレスシートの日本語翻訳を...


タイトルは・・・ 「月に光を」
副題は・・・・・  ムーンフェイズが主役になったグランド・ランゲ1

新作グランド・ランゲ1・ムーンフェイズでは、122.6 年に1 日分の誤差という高精度ムーンフェイズ表示がメインダイヤル上で一段と強く精彩を放ちます。ムーンディスクを特許技術でコーティングしたことにより、天文学の英知が凝集された複雑機構が、まるで本物の天体のような趣を醸し出しています。


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魅惑的な天体、月。
潮の干満を引き起こし、地球の気候を安定させ、幾多の生物や植物の生命のリズムに影響を及ぼすこの天体は、有史以来、天文学者の関心を集めています。

時計愛好家にとっても大切な要素であるムーンフェイズ表示。
ドイツ・ザクセン州で時計を作り続けるA.ランゲ&ゾーネは、1994 年以降、12 種類のムーンフェイズ表示搭載モデルを発表してきました。
とは言うものの、今回発表するグランド・ランゲ1・ムーンフェイズほどムーンフェイズ表示が際立つモデルはありません。

月齢表示ディスクに、メインダイヤルという大舞台が与えられたのです。
ムーンフェイズ表示が実際の月相の変化を驚くほど忠実に再現する様子を、はっきりと読み取るのにこれ以上の表舞台はないでしょう。
ムーンフェイズ機構が筒車の連続運動と連動しているため、月そのものと同期するように動き続け、月相を正確に表示します。
月相の変化は、肉眼では見ることができないほど小刻みに進んでいます。

さらに、99.9978 パーセントという驚異的な高精度で新月から次の新月までの期間(朔望月)の月相を表示します。
新月から次の新月までの平均的な周期は、29 日12 時間44 分3 秒です。そのため、ほとんどの普通のムーンフェイズ表示機構はこの値を29.5 日に切り捨てて作られています。したがって1 周期ごとに44 分3 秒の誤差が生じ、その誤差の累計は2 年半後には24 時間にもなります。

グランド・ランゲ1・ムーンフェイズではこの朔望月ごとの誤差は1 分以内です。
それは、この新作の7 段変速機構がはるかに緻密な計算に基づいて作られているからです。
ムーンフェイズを一旦正確に合わせて連続して作動させれば、1 日分の誤差を修正する必要が生じるのは122.6 年後のことです。
ただし、これほどの長い時間、修正せずに待つ必要はありません。ケースの7 時位置と8 時位置の中間にある修正プッシャーを使って、例えば長期間時計を巻き上げなかった時など、いつでもムーンフェイズ表示を調整できます。

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ムーンディスクのゴールド無垢のコーティングにかけられた無数のこだわりにも、A.ランゲ&ゾーネの開発者たちの完璧主義と情熱が宿っています。
夜の星空のイメージを可能な限り印象的に再現しようとしたのです。
熱心な研究開発の成果として特許を取得したこのコーティング法は、比類のないほど鮮やかな発色とくっきりと浮き上がる一つひとつのディテールで、究極の美を希求する心を満足させてくれます。反射する光がオーバーラップする相互干渉効果で自然光のブルー以外の色素はすべて消されてしまうため、見る人の目には限りなく深いブルーに映るのです。輪郭をレーザー光でくっきりと刻み込んだ大小とりどりの300 個以上もの星の群れは、まるで小銀河のような輝きを放っています。

そのほかにもオフセンターに配置したダイヤル、アウトサイズデイト、円熟した製作技法で仕上げられる自社製キャリバーといった、A.ランゲ&ゾーネの象徴的要素を備えているグランド・ランゲ1・ムーンフェイズ。パワーリザーブは72 時間と充分ですが、効率的なシングルバレル設計で、ムーブメント高さをわずか4.7 ミリに抑えました。ピンクゴールド、イエローゴールドまたはプラチナ製のケースは、直径41.0 ミリの堂々とした風貌です。伝統的なチラネジテンプ、自社製ヒゲゼンマイ、素材の表面をそのまま生かした洋銀製の4分の3 プレート、職人が手で丹念に装飾を施した部品の数々で組み上げる自社製キャリバーL095.3。A.ランゲ&ゾーネ独自の高精度の技術とデザインの伝統性がここにも盛り込まれています。



以上がプレスシートの全文です。





それではいろいろと考えてみましょう。まずは…、
①ムーンフェイズの機能的な部分ですが、プレスシートを要約すると次のようなことになっていますね。
その点を、ランゲの他のムーンフェイズを持つモデルと比較してみます。

【グランド・ランゲ1・ムーンフェイズ】
朔望月ごとの誤差(月の満ち欠けの一周期あたりの誤差を)は1 分以内です。それは、この新作の7 段変速機構がはるかに緻密な計算に基づいて作られているからです。
ムーンフェイズを一旦正確に合わせて連続して作動させれば、1 日分の誤差を修正する必要が生じるのは122.6 年後のことです。

一方の【ランゲ1・ムーンフェイズ】(LangeのHPより引用)
筒車の回転を4つの歯車が段階的に減速するメカニズムにより、29.531日の朔望月を99.998%の精度で再現します。
このムーンフェイズ表示を一度正しく設定すれば、表示と実際の月の満ち欠けとのずれが積算されて1日分になるまでに122.6年かかります。


上の説明文を比較してみますと、月相の精度に関する限り、この2つのメカニズム(122.6年に一日の誤差)はほぼ同じだと思われます。

このような精密なムーンフェイズ機構は、ランゲはもちろんパテック・フィリップやジャガー・ルクルトなど、自社ムーヴを開発するマニファクチュールで2007年頃から熱心に開発された機構ですが、2013年の今となってはこの機能自体そんなに特別なものではなく、今日では先端機種の誤差表示で「122年」という数字は割とよく目にします。
たとえば、以前に紹介した月をリアルに彫刻したコチラ(122年)とか、月の写真を転写することで月のリアリティーを追求したドイツ製のコチラなども122.5年に一日と明記しております。

※ここから先は寄り道となりますが…
シャウボーグの基本設計はドイツのスター・ウォッチメーカーのひとりマーティン・ブラウンですので、彼がフランク・ミューラー・グループ時代に発表した「セレヌ」がベースと思われます。ところでマーティン・ブラウンといえばフランク・ミューラー・グループを離れて独立、2011年に新ブランド「Antoine martin (アントワーヌ・マーティン)」を興したそうなのですが、今年初頭に話題となり当ブログでも紹介していた「スローランナー」は実はそのブランドの新作だったという…気が付かずに本当にすみませんOrz…。ところが一方で「Antoine martin」 はスイスの新興ブランドとする説もあり、マーティン・ブラウン自身はこうしてシャウボーグに技術提供してたりもするようで、本当のところはどうなんでしょう。どなかたご存知の方がいらっしゃいましたら是非ご教授ください)。


話が脱線しましたが、つまり、月相の精度だけに限って言えば、「ランゲ1ムーン」と「グランドランゲ1ムーン」とに差は無く、むしろ限定時計ではありましたが「1815ムーンフェイズ」の精緻さのほうが、ほとんど圧倒的・ぶっちぎりな精度なわけです。。。

【1815ムーンフェイズ】
月の満ち欠けの一周期あたりの誤差を、わずか6.61秒にまで抑えることに成功。
その結果、月の実際の動きとの誤差は、1058年で1日という高精度のムーンフェイズ機構を搭載しています。

ただわたしだけなんでしょうか…、ランゲ1ムーンも1815ムーンも、ともに24時間わずかずつ形を変えて動いているというのですが、2つの円形ディスクの組み合わせで月相をあらわす1815ムーンフェイズでは、(まず最初の満月の調整からしてそうなんですが)実際の月と文字盤上の月の形状が一致しているという実感が(必ずしも)得難いのに対して、月のディスクが(4枚の歯車で7段速で減速して)動くランゲ1系統の昔ながらの伝統的ムーンフェイズのほうが、見た目の月と文字盤上の月の形の一致度が高いように感じるのです…。

※たとえば立体的ムーンフェイズで有名なDe Bethuneの” スフェリカルムーンフェイズ”のメカニズムなどでは、朔望月ごとの誤差というのはどのように発表されているのでしょうか? いろいろと調べてみたのですが記述が見つかりませんでしたので、お詳しい方がいらっしゃいましたら、こちらもご教授お願いしたいです。



②デザイン面
だいぶ遠回りしましたが(笑)、①でみたように現行の「ランゲ1ムーン」と新作の「グランド・ランゲ1ムーン」とでは、月表示の機能には差がないようなので、要するに今回の作品の新機軸は、本当にすべてデザイン面にあるということになります。メイン・ダイヤルの上半分にムーンディスクを配置した新作のデザインが好きか嫌いか、ほとんどこれに尽きるわけです。

【大きな改善点】としては、
圧倒的に見やすくなったメインダイヤル位置のムーンフェイズ。
1815ラトラパンテにも採用されていた青以外の反射光を消してしまう特殊なコーティングによる夜空。
その中に浮かぶ精緻なレーザ加工によるエッジの明瞭な300個以上の星々。
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【好みの分かれる部分】
小さい径で凝縮感のあるランゲ1ムーンと、ランゲ1よりもワンサイズ大きいながら、薄型ならではのスッキリ感のあるグランドランゲ1ムーンとの、質感&サイズ感の好み。
ランゲ1ではルミネートだった針が、新作は18Kを使用。
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【ネガティヴな意見】で多かったのは、
メインダイヤルのムーンフェイズのない下半分に何もないので、非常にスカスカして見える。せめてかんたんな同心円くらいの彫りがあれば…、と。
でも、下の写真のように針が4時40分あたりを指しているときには、何もなくてもよいのでは…、という意見もありました。
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前のブログにも書きましたが、個人的には月の部分をもっと盛るなど、お月様自体にもう少し工夫があったほうが(引用したアーノルド&サンとかシャウボーグまではいかなくとも)、時計自体の存在感ならびにグランド・ランゲ1ムーンとしての独自性が高まったかもしれないと感じます。

※下の写真はシャウボーグ(マーティン・ブラウンと提携)の写真転写の月。
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ムーンディスクが移動した後の、スモールセコンドの表記にひと工夫欲しかったという意見。
ランゲ1ムーン時代の下半分の数字表記がを上半分にも応用された形ですが、
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もうちょっとデコラティブなこんな感じとか…もう一工夫欲しかったという声も。
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ただまぁランゲ1もそうだったように、文字盤デザインに関しては、将来的なヴァリエーション展開は期待できるでしょう。


最後に③マーケティング的な面ですが、
限定時計として発表された昨年の「ルーメン」と比較して市場がさほど加熱していないのはまさにこの部分で、
今回の発表が”ノーマル・デザイン”の3本だったということが大きく影響していると思います。
「グランド・ランゲ1ムーンフェイズ」検証編_b0159560_14261594.jpg

この中に、たとえばWGケースの黒文字盤などが数量限定とかで存在していたら、
…黒文字盤の中に青色透過されたムーンディスクが浮かび上がり、レーザー・エッジの星が輝く、できればアウトサイズデイトも白抜き文字で仕上がってくれば(WGケースではまずやってはもらえないだろうけど…)、これはなかなかに妄想し甲斐のあるモデルだと思いますし(笑)、わたしもけっこう焦って入手を画策していたりしたかもしれません(笑)。


いろいろと書いてきましたが、本音をまとめると、
①機能的には、ランゲ1ムーンと機能的にも差別化できるくらい、肝心のムーンフェイズ部分にいま少しでも新機軸のアイデアが搭載されていてほしかった気もしますけれども、
②デザイン的には非常に安定感のあるミドルレンジ・モデルで、今後ランゲの代表機種として末永くカタログに残るモデルとなると思います。
③限定時計を含めた、今後のデザイン・ヴァリエーションにも期待できそうです。

…といった感じになるでしょうか。











 



あとは……
来たるSIHHで、あとはどのようなニューモデルが発表されるのか…。
ジェローム・ランベール氏の退社は新作ラインナップにどのように影響するのか…。
ありきたりの表現になってしましますが、非常に楽しみでありますが、




【最後に一言…】だけ、一言だけ、書き加えるのならば、
一昨年、グランド・ランゲ1が発表された後、たしかコモ湖のイベントで同席した際に、デ・ハス氏にこう尋ねたことがあります。

――このムーヴメントは、シングル・バレル化によって生じたムーヴ内のスペース的余裕などの面で、ランゲ1ファミリ―のさらなる発展的を可能にするに違いないとは思うのです…、たとえば、クロノグラフなど、将来の新機能搭載の可能性を広げていますよね?

「その通り」

――でも、この新型グランド・ランゲ1が、ランゲ1の地位を奪ってしまうことになったら嫌です。たとえば、新機能はどんどんこちらのグランド・ランゲ1に搭載され、その結果、市場にデリバリーされるランゲ1の本数が徐々に減らされて、どこのお店に行ってもこのグランド・ランゲ1しかない状況になっちゃったら…とか、…これって心配しすぎでしょうか?

「ランゲ1は、われわれにとっては特別で、代えるものがない最も大切なモデルであり、それがないがしろにされるようなことは絶対にないといえるだろう。心配する必要はない、がはははは」




・・・でもさ、でもさ、確かにディスコンにはならないにしろ、昨年のルーメンからこのグランド・ランゲ1ムーンの出現とかは、まさにわたしが心配したシナリオに沿っちゃってる気がするんですが………。
うーむ、む、む、蛇足かもしれませんが、わたしとしましては、まもなく開かれるのSIHH2014での、ランゲ1の扱いにも注目したいところです・・・。











by a-ls | 2013-12-14 14:53 | Lange 1