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カテゴリ:パルミジャーニ・フルリエ( 1 )

パルミジャーニ師の言葉


降りそうで降らない曇天の夕空。わたしはそそくさと青山外苑の道を急いでいた。
何しろこの日、パルミジャーニ・フルリエの東京オフィスにお招きいただき、偉大なマイスター、ミシェル・パルミジャーニ師のレクチャーをSkypeを通じてライヴで聴講できるという、類まれな機会に恵まれたからだ。

なんでも、これから世界各国のエンドユーザーとこのようなコミュニケーションを図っていく方針だそうで、今回はその世界初の、いわば”実験ケース”としてお選びいただいたらしい。いや、実験であれなんであれ、光栄なことに間違いない。

膨らむ興奮と少しの緊張を携えてエレベータに乗り、招き入れられた応接間は、まさにSkypeの最終チェックの真っ最中だった。

早速、パルミジャーニ・フルリエ・ディストリビューション・ジャパンのジェネラル・マネージャー、ブルーノ・モネ氏と名刺交換を済ませると、フレンドリーなこの御仁は、
「あ、そうそう、紹介するよ。ミシェル・パルミジャーニだ」と、モニター画面の向こう側でチェックのためにスタンバイしていた男性を指し示す。
気取りのないカジュアル・スタイルで椅子に腰かけていたその男性が、片手をあげ「C'est bon(セ・ボン)!」と、なんとまぁ気さくな第一声。
これが”神の手を持つ男”と呼ばれた時計師とのファースト・コミュニケーションだった。


この日招かれた日本側ゲストは6名。日本時間は夕刻、仕事終わりのわれわれはシャンパンで、スイス時間は午前中のためこれから仕事に入る時計師はペリエを片手に、互いのモニター越しに乾杯し、そして、60歳を過ぎているとは思えないほど精力的で若々しいミシェル・パルミジャーニ師の講演は始まった。
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内容は、幼年期の時計との出会いから、修復師として時計界に入った理由、サンドス・ファミリー財団との出会い、そしてマニファクチュール・ブランドを設立して現在に至るまでの師の経歴を軸に、機械式時計の製作に対する姿勢や情熱を織り交ぜた興味深い講演だった。

それはとてつもなく純粋で当たり前な話だったのだけれど、パルミジャーニ氏の口から出るその言葉には、やはり説得力があった。

やがて質疑応答の時間となり、各ゲストからの質問が続く。そしてそのしんがりで、かねてから興味を持っていた質問を正直にぶつけてみた。
以下、記憶をたどってまとめてみる。
ま、多少美化されているかもしれないけれど(笑)、質疑応答のやり取りは概ね次のようなものだった。


――古い時計の修復にも関わっているパルミジャーニさんだからこそお伺いします。
主に手仕事で作られた昔の時計と、進歩した精密機械や計測器が用いられる現代の時計、それぞれの利点と欠点を教えてください。

「最近の精密機械の進歩は素晴らしいですが、そのまま人の手を何も加えずに使えるパーツは実はそれほどありません。人の手が加わることでそれはさらなる精密さや仕上げの美しさを持つのです。機械によって製作された部品だけを組み上げても、それはまだ高級機械式時計と呼べる範疇に到達しません。もちろん、良い点もあります。機械の進歩によって、部品を均一的に作ることが容易になりました。つまり部品の取り換えが容易になったのです。それによって現代では時計の故障やオーバーホールの際にも、的確で素早いサービスが可能になりました。これは精密機械のなかった昔では大変に困難だった点で、古い時代の高級機械式時計の多くが特別オーダーによる一点物で成り立っていたのは、主にその点によります。」


――高級機械式時計という範疇において、パルミジャーニ・フルリエと他ブランドとの大きな違いは何でしょうか。

「時計の完成度において生じる大きな違いは、ひとつの部品に対して、そして、ひとつの調整に対して、どれほどの時間を費やすかということに尽きます。解かりやすい例は仕上げでしょう。トゥールビヨンのキャリッジの部品を満足のいくレベルで仕上げるには、どんなに最低でも20時間の時間が必要です。もちろんそれ以外の工程、たとえばヒゲゼンマイの調整もそうでしょう。ひとつひとつにどれほどの時間を費やすのか、もちろんそれはコストとして価格に跳ね返ってきますので、これは作り手側の覚悟と信念の問題となってきます。高級機械式時計の範疇にあることを謳いながら、本来掛けるべき時間や覚悟が不足した時計も、かなりちらほらと目にするのも事実です。わたしたちパルミジャーニ・フルリエは年産5000本の時計を制作していますが、その一本一本に、マニファクチュールとしての誇りと信念が込められています。」


――機械式時計の機構自体はかなり突き詰められて、近年では素材や装飾の違いをして”新製品”と呼ぶ作品が目につく気がしますが、高級機械式時計はこれからどのような方向に進むべきだとお考えですか?

「確かにそういう傾向があるのは間違いありませんが、わたしはスイスの機械式時計産業がクォーツに駆逐されて、『昨日はあそこが閉鎖した、今日はあそこが倒産した』という、たいへんな逆流の中でこの世界に入りました。そのため古い時計を修復することからキャリアをスタートさせました。そのときもわたしは、自分と機械式時計は”赤い糸”で結ばれた運命的な関係と感じていました。それは今も変わりません。ですからわたしのキャリアは、昔に発明された素晴らしい機構が進化や改良を加える過程をより良く見ることができました。その上で言えることは、どんなに突き詰めても、未だどの機構も完璧ではないということです。それが完璧でない限り、そこに改良の余地がある限り、時計師はそれを完璧に近づけるために最善の方策で取り組むべきであり、それがわたしたちの使命でもあると考えています。」

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残念ながら、ここでタイムオーバー。
「この続きは、ぜひまた近いうちに行いましょう」というモネ氏の挨拶で、パルミジャーニ氏は”本日の作業”へと戻っていったが、最後の回答の言葉はとても印象的だった。

なるほど!クロノグラフも永久カレンダーもトゥールビヨンも、ミニッツ・リピーターだって、2015年現在、”これがパーフェクトだと言い切れる機械はないのだ”!
どこかに改良の可能性が残されている限り、それをコンマ1ミリでも完璧に近づける可能性に向かって、ほほ永久的に、良心的なウォッチメイカーには成すべき挑戦が存在するのだ!!

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その後、場所を変えてディナーをご一緒したのだが、これもまた素晴らしいものだった。特にジェネラル・マネジャーのモネ氏のお話は、時計は言うまでもなく、多岐にわたる趣味の話が実に愉快で、とても贅沢な時間を演出してくれた。特に車に関しての造詣は深く、パッド片手にご自身が所有する21台ものクラッシック・カーの動画や画像を披露してくれたり、車の縁で当時BMWに在籍していた現ランゲCEOのシュミット氏とは10年来の知己であることや、あのリシャール・ミル氏とF1のクラシックカーを共同所有している話など、興味深い交友関係もうかがうことができた。


マネージャー氏がこんな感じなので、こういう会にありがちな、いわゆるセールスプレッシャーのようなものが微塵もない。
それどころか、ブランド全体にゆとりというか、一流を誇りとしそれを楽しむ余裕が溢れている感じなのだ。

最近よく想ってしまうのだが、時計を買う人(ユーザー)、作る人(ブランド)、売る人(代理店)という3者それぞれの本来の立ち位置は、もしかしたら相容れないのかもしれない(笑)。3者が「時計を愛する」というスタンスでいるうちはそれなりハッピーなのだが、その”愛情”の質は意外と異なっていて、究極的に「経済活動」というスタンスに変換されていく比率が高まると、互いの関係性はかなり息苦しいものになるのではないか・・・。

しかしこの日の体験、パルミジャーニ氏の真っ直ぐな言葉、そしてブランドスタッフの醸し出す、時計と人との出会いを楽しむ気風・・・。おかげで様で何か、最近は忘れてかけていた時計への感情や、ブログの行く末などいろいろと考えあぐねていた迷いなどに、この夕景の出来事はとても心に強く響き、時計と自分との関わり合いみたいなものを、改めて自分なりに整理するよいキッカケとなったと思う。
この日を契機に「感じたこと・決めたこと」については、近々別にブログにまとめることにしたいと思う。


うん。いろんな意味で、”Merci beaucoup”、どうもありがとう!!!




















ブログをずっと敬体文で書いてきたが、
そのために本業の文が荒れてきた気がしたため、
久しぶりに、常体で書いた。







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by A-LS | 2015-06-20 03:20 | パルミジャーニ・フルリエ | Trackback | Comments(4)