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「リヒャルトランゲ ジャンピングセコンド」考察


ランゲ&ゾーネの今年の新作、「リヒャルトランゲ ジャンピングセコンド」

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先日のブログ記事で、
『思い起こすと、ジェロームの古巣ジャガールクルトも昨年の秋に、”トゥルーセコンド機構”と名付けた新しいムーブメント、cal.770を発表しているのだが、これがまさにデッドビート(ジャンピング)セコンドなのだ。同じボスが離れてからほぼ同時期に完成したスイープ運針時計、通年のテンションだったらば両者の輪列図でも並べて、その相違点・共通点などを論じたところだが、誰かが調べてみていただけると有難い、いや、ほんとに』
などと不遜にもつぶやいたところ、拙ブログにもコメント寄せていただいている友人の CC Fan さんから貴重な寄稿を戴いたので、許可を得て掲載します(※画像に関しては当方での掲載)。



「ジャンピングセコンド」を分析しての感想は、"コロンブスの卵"だった。
既存のステップ運針機構をベースにしながら、シンプルにルモントワール(定力装置)と融合させた構造は素晴らしいと思う。

ジャガールクルトの"ジオフィジックトゥルーセコンド"の輪列と対比させながら、仕組みを見ていきたい。

どちらも、ステップ運針の秒針を作る仕組みは似ている。

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※画像上=リヒャルトランゲ ジャンピングセコンドの裏側。
画像下=ジャガールクルトの"ジオフィジックトゥルーセコンド"、引用はジャガールクルトのオフィシャルHPより。
http://www.jaeger-lecoultre.com/AE/ja/luxury-watches/geophysic-ja?name=geophysic?name=geophysic%3Fname%3Dgeophysic

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香箱からの輪列をガンギ車・テンプに至る通常輪列と、ステップ運針用のステップ輪列に途中で分岐させる。
ステップ輪列末端には板バネ上のレバーが装着され、通常輪列のガンギ車同軸の星形車によって規制されている。
ガンギ車が回転することで1秒に1回レバーが解放され、レバーが1回転すると秒針が1秒進むというのがステップ運針を作る基本的な仕組みになる。
規制されている時もレバーは微妙に動くが、解放時の動作と比べると小さいため、秒針は停止しているように見える。
また、星形車の形状とレバーの長さを工夫することで、レバーからガンギ車へのトルク伝達を少なくし、トルクを与えずタイミングだけをステップ輪列へ伝えられるようにしてある。

通常輪列はテンプの振動数(5振動/秒~8振動/秒)で動き、ステップ輪列は1振動/秒で動いているため、合計の回転数は同じであるものの、瞬間的な速度は異なってしまう。
歯車のみで直結していると上記の速度差を吸収できないため、トルクを一時的に蓄え、速度差を吸収するためのヒゲゼンマイをどちらかの輪列に入れる必要がある。

トゥルーセコンドをはじめとした、デットビートと呼ばれる時計はステップ輪列側にヒゲゼンマイを入れ、通常輪列は直結になっている。
これは、普通の輪列にデットビートを追加するという考え方で作られており、至極普通の構造である。
当然、直結であるので香箱のトルク変動はそのままテンプに伝わってしまう。


リヒャルト・ランゲ ジャンピングセコンドは逆に、通常輪列側にヒゲゼンマイを入れ、ステップ輪列は直結、かつ香箱から完全に二つの輪列を分けている。
3/4プレート中心のシャトンが香箱であり、その向かって右のコンスタントフォーススプリング周辺のシャトンが通常輪列、香箱の上側のシャトンがステップ輪列となっている。


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※リヒャルトランゲ ジャンピングセコンドの輪列図


結論から言うと、ヒゲゼンマイを入れる位置を入れ替えただけで、ルモントワールと同じ動作をすると考えられる。

直結しているステップ輪列は香箱のトルク変動の影響を直接受けるが、前述の通りガンギ車へのトルク伝達が少なく、直接の影響はガンギ車へは伝わりにくい。
ヒゲゼンマイを経由している通常輪列はステップ輪列が動いたときだけ、ヒゲゼンマイへのエネルギー充填が行われ、それ以外の時はヒゲゼンマイのエネルギーで動いている。これは、ステップ輪列が香箱を制御する1秒ルモントワールとみなすことができると思う。
ルモントワールはトルクをある程度"捨てる"機構だが、終端の回転数が高く(1回転/秒)、大きなクラッチシステム+針を動かさないといけないステップ輪列は捨て先として非常に有効だと考えられる。
またルモントワールで通常必要な制御カムやレバーなどの部品もいらず、ステップセコンド用の部品だけで実現できる。

ランゲのおむすび状のカムと1歯のガンギ車を使った10秒ルモントワール(ランゲ31、テラルーナ)、60秒ルモントワール(ツァイトヴェルク)とはずいぶん変わったが、極めてシンプルな構造で機能を実現できている。
これが"コロンブスの卵"と思った理由である。

製作が難しいかはわからないが、理論的には理に適っているように見える。
個人的にはセンターセコンドのリヒャルト・ランゲ顔にして欲しかったが、輪列を眺めていると確かにザイフェルト顔に合っているように思った。

考えてみれば、香箱までさかのぼって制御するルモントワールというのは非常に珍しい気がする。
ランゲの今までの作品は大体4番車相当の部分にルモントワールユニットが装着され、そこでトルクの脱進を行うものが多く、ルモントワールを備えている他メーカーの作品でも4番車相当の部分にあるものが多い。
ただし、理論的に考えれば、最終的なトルクの供給先であるガンギ車に直接ルモントワールを備えればカナの伝達誤差が無くなるため、良いはずである(ただしトルクが最も小さくなっているので、製作は難しいと思われる)。

ランゲと同じザクセン生まれのブランド、ラング&ハイネのCaliber Vはガンギ車にルモントワールを備える珍しい構造である。
ガンギ車部分のみ変更する非常に小さいユニットでルモントワールを実現している。
ブリッジの上にも歯車が追加されているが、これはセンターセコンド駆動用の中間車でルモントワールとは直接関係無いようである。

ルモントワールは結果として求められるのは唯一定力化だが、アプローチがそれぞれ異なり、それらを読み解く楽しみがあると思う。
ガンギ車にルモントワールを備える方法はIWCの94800/94900キャリバーのトゥールビヨンケージを生かしたアプローチも非常に面白い。



CC Fanさん、素晴らしいです!
本当にありがとうございました!!
そうなんですよね、このような画期的な機構を持つ時計だけに、限定ではなく通常品にしてほしかったと強く思う……わけです。


最後は”デ・ハース劇場”~「Jumping Seconds編」をどうぞ。





また、CC Fanさんの寄稿文中にも少し触れられていましたが、ラング&ハイネ「コンラート」と「リヒャルトランゲ ジャンピンング セコンド」は、ステップ運針+ルモントワールという同じ機構を持つメイド・イン・ザクセンのタイムピースですが、両者の機構の比較検討に手を挙げてくれた賢人もおられますので、楽しみにしております。
年頭のブログにも書きましたが、今回のように、時計ファンの方々からの発信を広く受け止め、最新情報をいち早く届ける場としての「時計サイト」の構築を目指しておりますので(早ければ今春にオープン予定)、ぜひとも皆さまのご協力をお願い致します。
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Commented by トキオ at 2016-02-10 14:53 x
1秒ステップ機構は昔の香箱二つの独立秒針時計と同じですが
共通香箱のステップ秒針機構でルモ脱進させるというアイデアが
複雑になりがちなルモをシンプルにまとめ上げていて面白いと思います。

Commented by a-ls at 2016-02-13 11:54 x
トキオさん ありがとうございます。
機構のことはなかなか解りづらいので、いろいろ解説いただけますと、ホントに有難いです。
今後ともよろしくお願いします。
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by A-LS | 2016-02-10 09:08 | ランゲ&ゾーネ | Trackback | Comments(2)