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モンブラン、そしてミネルバ

久しぶりに、懐かしい方とお食事をご一緒しました。これは、”あっち用”の面で、名刺を裏返しますと…
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昨年夏までランゲと一心同体だった、前ジャガー・ルクルトCEOの、この方です!!
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現在はモンブランのCEOとして、SIHHで発表された新作を自ら世界中に足を運んでプレゼンテーションするプロジェクト、「Black&White Weeks」の日本での一コマです。

モンブランと言えば、筆記具&文具において巨大な世界的シェアを持ち、リシュモン・グループの中でもカルティエに次ぐ多角的なアイテムを販売するインターナショナル・メゾンですから、人事的にも大栄転なのですが、ジェロームの異動を聞いた時まずわたしの脳裏に浮かんだのは、”これからモンブランの時計は、間違いなくすごく良くなる”というイメージでした。これまで何人ものブランドCEOにお会いしましたが、彼ほど本当に時計好きな経営者に出逢ったことはなかったからです。

そこでわたしは、彼の異動を伝えるブログを書いた際に、そのコメント欄に次のような”予言”を書き添えました。

 『しかし、モンブラン傘下にあるミネルヴァという素晴らしいムーブメントメーカーにとっては、時計マーケットに天才的に明るく、しかも時計好きであるこの新たなCEOジェローム・ランベール氏の就任は、大きな可能性と光明を与えることになるに違いありません。この点に関しましては、非常に楽しみであります!』、と。


・・・・そしてその予言は完全に実現しつつあるようです(笑)! 


昨年7月の就任から翌年1月のSIHHまでの間に、彼は旧体制下で当初予定されていたモデルのほとんどを”ランベール流”に変更したそうです。
その画期的なコンセプト、商品構成、価格設定などは、SIHHでも非常に注目されていました。

すなわちそれは、モンブランの人気クロノグラフ・コンセプトであるニコラ・リューセックでのオマージュ・シリーズ、驚異的なスーパールミノーバ仕様の限定モデル「193」と「565」の発表であり、モンブラン万年筆のヒストリーを時計にもなぞらえたマイスターシュテック・ヘリテイジ・コレクションというNEWラインの創設でもあり、特に、そのクォリティでは考えられない価格設定(SSが136.9万・RGでもなんと231.4万!!)のパーペチュアル・カレンダー(冒頭の画像、名刺下に見える時計です)の発表は、世界中の時計メディア&ファンを驚かせました。
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新作のどれもが、マーケティング的に強いインパクトを放ち、メディアにも多く扱われていますが、彼が真にフィーチャーしていきたいものを突き詰めていくと、それはどうも”ミネルバ・キャリバー”へと行きつくのです。



この夜も、会った瞬間の彼の最初のセリフが、「Youはヴィルレ(ミネルバの工房所在地)へ行ったことある?」でした。
「まだ無い」と答えると、「ぜひ一度見て欲しい!!」と語ったのち、あとはほとんどずっとミネルバの話ばかりでした。

ミネルバについて少し書きます。
 1858年にスイスのジュラ山脈ヴィルレー(モンブランはヴィルレと表記しているので以下はそれで統一します)で創業。
ローマ神話の女神「ミネルバ」を社名とすることから、いくつかのパーツの先端部分に女神の持つ槍の穂先を型取るのが特徴で、1936年の冬季オリンピックのスキー競技の計測時計に自社のストップウォッチが採用されたり、1948年にはクロノグラフの名作ムーヴ「キャリバー48」を完成して、結果、クロノグラフとストップウォッチの部門では他社の追従を許さない成功を遂げます。
 その特徴は、部品ひとつひとつの面取りや仕上がりが素晴らしく丁寧で、パーツの描くラインが芸術的でさえあること。年間数千本の生産という小規模メーカーながら、自社ムーブから製品まで提供できる(註:バルジュー社からCal.72の供給を受けて70年代までクロノグラフを生産したり、それ以前にもアンジェラスのCal.215を搭載したクロノグラフを作ったりもしていましたが)、スイスでも数少ないコンプリート・メーカーであったことでした。
 職人&社員数も20数名+繁忙期に村人50人のヘルプあり(笑)、という家族的・牧歌的メーカーであったのですが、2002年頃にイタリアの投資グループに売却され、2007年からはリシュモングループ、モンブランの傘下に入ります。
 
 昨年までは、モンブラン・ブランドとは一線を画した高級ラインとして、このミネルバは少ロットで生産されてきました。
ミネルバ・ラインの作品は昔ながらの伝統的な手法によって丁寧な製品作りを行ない、そのムーブメントは「チラネジ付きの大型テンプ」、「スワンネック付き緩急針微調整装置」、「ロービート(=18000振動)」を特徴とするなどとしてきましたが、実のところ昨年までのモンブランでは、ミネルバをちょっと持て余し気味だったようにも感じられました。
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そこに登場したのが、無類の時計好きの経営者、ジェローム・ランベール氏です。
この会食中にも、「モンブランへの異動に関して、僕が出した最大にして唯一の条件は、ミネルバを任せてもらうということだった」と語っていましたが、SIHHのパネル展示で、モンブランの歴史の中にミネルバが自然に混入・存在しているのを見たとき、わたしは自分の予言が当たったことを確認したのでした。

彼が成し得たこと、それはモンブランのマニファクチュール工房のあるル・ロックルとミネルバの故郷ヴィルレとのマリアージュでした!
その顕著な一例が、伝統的なクロノグラフ・フェイスを持つ「マイスターシュテック ヘリテイジ・パルソグラフ・リミテッド・エディション90」です。
下の画像をごらんください。(上がパルソグラフ・リミテッド・エディション90。ちなみに下は2012年に発表されたミネルバ「ヴィルレ 1858 ヴィンテージ タキデイト」)
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どうですか、この嫋やかなパーツたちのライン!! 横にして見たのがコチラ。
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プレスシートにはこうあります。
『モンブランの至宝ともいえるヴィルレ工房の秘蔵の技術が、ル・ロックル発のこのマイスターシュテック ヘリテイジ・コレクションの最上級機種に注がれていることも、今後のモンブランの時計作りの行く末を示唆する出来事です』。

興奮して表画像を忘れてますね(笑)、リストショットでどうぞ!!
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ミネルバの「ヴィルレ1858」は43.5mm径なので、「もうすこし小さくならない?」と訊いたら、ジェロームは「これ以下のサイズにすると、この大きなテンプが維持出来ないんだ」。そしてこの2つを比べて、「ね、小さくすると、ムーブメントのパーツの美観が少し弱くなるだろ」と、本当にこれは時計馬鹿じゃないと言えないセリフを(笑)…。時計のことになるととにかく熱いのだ、ジェロームは!!
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そして、このマリアージュの最高峰として、モンブランとミネルバの、つまり伝統的ウォッチメイキングとウルトラモダンの融合ともいえるのが、「タイムウォーカー クロノグラフ100」と「ヴィルレ1858 エグゾトゥールビヨン クロノグラフ ラトラパンテ GMT」でしょう。
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まず、「タイムウォーカー クロノグラフ100」ですが、現代のモンブランを代表するラインであるタイム・ウォーカーのコンセプトに、ミネルバ・ムーヴの伝統でもあるストップウォッチ機能を融合させて、100分の1秒単位まで計測可能なクロノグラフを作り上げました。時針と計測はそれぞれ別の香箱が司っているため、リューズの巻き上げ方向で区別するのですが、その巻味のみごとさと言ったらありません。ジェロームは「ベルべットのような滑らかさ」と評しましたが、まさにそんな感じで、歯車の引っ掛かり感がまったくなく、まるで絹を撫でるような感覚が指先を伝うのです。
モダンなチタン・ケースのデザインは、幾つもの特許を搭載した伝統的モノプッシャー・クロノとそのムーヴの動きを、表からも裏からも、様々な角度から覗き見られるように設計されています。径は45.6mmと大型ですが、それを感じさせないくらい、時計馬鹿を激しく吸引してやみません(笑)。

プレスシートはこう述べています。
『このモデルは、長い歴史を誇る時計製造の類まれなテクニックと、グッドデザインを融合させた記念碑的存在であるとともに、もうひとつのモンブラン・マニファクチュールであるル・ロックルの工房が、最高峰の技術を誇るヴィルレ工房の至宝の数々を享受していく前奏曲でもあるのです。』

そして”ヴィルレ1858”の名を冠した「ヴィルレ1858 エグゾトゥールビヨン クロノグラフ ラトラパンテ GMT」もすごいです。
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時計のネーミングを追っていけば、そのすごい機能がうかがい知れちゃいますが(笑)、トゥールビヨン、スプリットセコンドクロノグラフ、そしてGMTという数々のコンプリケーションを搭載したうえ、ゲージから解放された大きなトゥールビヨン(特許取得)がトルク負担を軽減するという(これはまだ勉強中)逸品。ちなみに表のサブ・ダイヤルのリングはグランフー・エナメルなんです!



さて、会食も進んだ頃、ジェロームにジャガーとランゲとミネルバの違いについて質問してみました。
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曰く、『氷河に閉じ込められたマンモスが、現代の世に、ほとんど無傷で見つかったとしよう。JLCはそれを分析し、古代のDNAを徹底的かつ合理的に機械化することに成功したブランドで、ランゲは古代のDNAをそのまま現代に活かす点において比類のない成功をおさめたブランドだ。そしてミネルバは、そのマンモスを解凍してみたら、奇跡的にまだ生きていたというブランドだ(笑)」

わずか47人の従業員が、それぞれいくつかの専門分野を兼務しながら、昔そのままの時計づくりを継承しているというミネルバ。
この食事中、ジェロームは何度も「われわれの宝」という表現でミネルバを語っていました。

確かに、この美しいシェイプを持った機械の造形が、天才的な経営手腕と時計馬鹿的要素をあわせもつ(失礼m(_ _)m)この男の手に入った今、もしかしたらスイス時計産業に新たな潮流が流れ始めるかもしれません。


この稿をお読みのあなたが、もしもランゲ・ファンで、かつバックケースからムーヴを覗くことがお好きであれば、ぜひ一度、これらヴィルレ製のミネルバ・ムーヴメントをご覧いただきたいです。

グラスヒュッテにも似た、あの素晴らしい景色がそこには見えますから!!








今後のモンブランに期待です!!


























でも、でも、ひとつだけ、ランゲサイドから言いたいとすれば、
モンブランに移動するときに、ランゲのマーケティング・ディレクターだった、イエン・ヘニング・コックさんを連れてっちゃったこと!
永平寺での修行経験もある日本通で、有能な人材だったのに・・・。

ま、有能だから連れて行ったのでしょうが・・・。
いま彼はモンブランのプロダクト・マネージャーとして大活躍中。
元々経営戦略や広告業界のキャリアもあるので、ヒュー・ジャックマンをアンバサダーに口説き落としたのも彼の功績らしい。

うーん。。。。。。
by a-ls | 2014-06-03 21:57 | 時計いろいろ