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ランゲ経済学 ~「1815クロノグラフ」と「ダトグラフUp&Down」

当ブログをご覧いただいている方から、次のようなご質問をいただきました。

「いつもブログ拝見させていただいております。今年のランゲはすごいですね!
ブログと違う内容で恐縮なのですが、1815クロノとダトグラフU&Dは性能でそこまでの違いが無いように思えるのですが個人的に価格にはかなりの開きを感じます。この価格差はどういった違いから出ているものなのでしょうか。単純にPTとWGの差なのでしょうか?ランゲ素人の質問ですみません。。。」



いえいえ、素人だなんて、とんでもございません!
ぜひ、こういうご質問を「Klub Lange」で投げかけていただき、みなさんと討議したいのですよ~!!

ご存知の方も多いと思いますが、ダトグラフと1815クロノグラフ、そして最新のダトフラグU&Dも、この3モデルはすべて基本となるベースムーヴメントに同じキャリバーを搭載しています。
すなわち、1995年の1番目に製作着手されたキャリバーという意味を表す、L951という名作キャリバーです。

※下の二つの時計の画像、上が1815クロノグラフ(キャリバーL951.0)、下がダトグラフ(L951.1)のものです。

キャリバー番号の枝番号、つまり小数点以下の数字は、ベースに微細な変化が加えられた際に付け加えられるものです。
たとえば、ランゲ1=キャリバーL901.0の枝番処理には1A(L901.1)、旧グランドランゲ1(L901.2)、ランゲ1MOP(L901.4)、リトル1ムーン(L901.9 )など、ランゲ1ファミリー全体で10個ほどの枝番があります。

この場合、枝番「.0」の1815クロノよりも、枝番「.1」のダトグラフのほうが先に世に出ているという点が面白く、当時のランゲ(=ブリュムライン氏)の戦略をあれこれ想像する楽しみも与えてくれます(笑)。


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最近は某メディアに『モデルごとに新たなキャリバーを開発するくらい、こだわりの時計製作をするブランド』みたいな紹介もされていましたが、創設時に開発と運営の指揮を執ったブリュムライン氏は、そんな形骸的なこだわりではなく、最高の時計をいかに合理的に製作するかというきわめて現実的なこだわりに関して天才的手腕を発揮した方でした。
94年の復興ランゲ最初の4モデルでは、「アーケード」の角形ムーブでラウンド時計の「サクソニア」を動かし、開発すべきムーブを3つに倹約したり、別のカタログ・ラインにあるダトグラフと1815クロノグラフが同じベースキャリバーを使っていたりすることも、ラインを重視する今のランゲのスタンスからは想像しにくいですが、彼にとってはこれも目的達成のための手段にしかすぎなかったわけです。
そんな彼の考え方を尊重してか、ブリュムライン氏の理想が詰まった「ダトグラフ」がその歴史に幕を閉じ、「ダトグラフUP&DOWN」という新時代のモデルにバトンを渡した際も、「ダトグラフUP&DOWN」のキャリバ―番号には同じL951の枝番である、L951.6が与えられたのでした。


※下はダトグラフUP&DOWN(キャリバーL951.6)のもの。当然ながら3つともクリソツですね。
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さて、ご質問の価格差についてですが、これは非常に比較が難しいといいますか、いつのどの時期の数字を基準とするかによって、その結果が随分と変わってくる問題を含んでいるからです。

ですから、まずは機構的に不変の部分を押さえておきましょう。
この3モデルのベースは同じキャリバーですから、基本的な考え方はこうなるハズです。

・1815クロノ=シンプルクロノグラフ
・ダトグラフ=シンプルクロノグラフ+アウトサイズデイト
・ダトグラフU&D=シンプルクロノグラフ+アウトサイズデイト+パワーリザーブ

つまりお尋ねに対して、価格という側面だけでみるならば、
1815クロノWGに、①PTケースとの素材の価格差②アウトサイズデイトの価値と、③パワーリザーブの価値を加えた価格が、
「ダトグラフU&D」の定価と一致すれば”至極妥当”、そうでない場合は、「ダトグラフU&D」が高いのか、「1815クロノ」が安すぎるのか、はたまたその逆なのか、考える必要が出てまいります(笑)。


まず一番なシンプルな方法でみてみましょう。
同じキャリバーを使っているということは、「ダトグラフPT」がディスコンになった時の最終価格と、「ダトグラフU&D・PT」の登場価格の差がズバリ、
③のパワーリザーブの価値になるのではないでしょうか?

※Pre-SIHHでの発表時ダトU&Dは予価700万でしたが、その価格で一台もデリバリーされることなく2012春の価格改定を迎えたため、それはこうなります。
ダトU&Dの2012年SIHH後の価格から、ダトPTの2011年ディスコン発表時の価格の差額

ダトU&D・PT(¥7,200,000)ー  ダトPT(¥6,650,000)= 550,000円(=③パワーリザーブの価値)

※最終的に4月の新定価と比べますので、サンプル数字はすべて税抜価格を使用します。


次に①と②を求めましょう。
まずは1815クロノグラフがカタログに登場した2005年の価格の比較です。

その当時から「ダトグラフ」にはPGモデルがありましたから、同じ18Kをケース素材に使った「1815クロノWG」と「ダトグラフPG」との価格差は、そのほとんどがアウトサイズデイトの価値に等しいといえることになるでしょう。

ダトPG(¥4,650,000) ー 1815クロノWG(¥3,920,000) = 730,000円 (つまりこれが2005年当時の②アウトサイズデイトの価値といえます)

次に同じく2005年当時のダトグラフによって、素材の価格差を見てみましょう。
ダトPT(¥5,950,000) ー ダトPG(¥4,650,000)  = 1,300,000円(これが2005年当時の①PTと18Kの価格差といえます)


ですから、この二つの価格要素を足した2,030,000円にパワーリザーブの評価額を加えれば、お尋ねの回答の一端がみえてくるでしょう。
ただこの2005年当時から現在まで、金相場はほぼ倍に、プラチナ相場は1.5倍に高騰していますし、物価上昇の係数も加味する必要があるかもしれません。
ちなみに、この考え方を2年後の2007年に当てはめますと、


ダトPG(¥5,580,000) ー 1815クロノWG(¥4,410,000) = 1,170,000円
(2007年当時の②アウトサイズデイトの価値)

次に同じく、素材の価格差を見てみましょう。
ダトPT(¥7,210,000) ー ダトPG(¥5,580,000)  = 1,630,000円(2007年当時の①PTと18Kの価格差といえます)

従いまして、この二つの価値要素の合計はわずか2年で80万円近くも増え、2,800,000円(年19%増)にもなったことになります。



本来であれば、このやり方を2014年まで積み上げて行けばいいのでしょうが、ここにちょっとした問題が起きます。

ひとつには、この年つまり2007年に、1815クロノグラフが一時ディスコンとなり、比較できるサンプル数字がなくなるということ。
ふたつめは、リーマンショック後の急激な円高によって、2010年に大きな下方修正(値下げ)による価格改定が行われることです。


たとえば2008~9年のダトPTは、史上最高値の7,570,000円(税抜)という、ダトU&Dの初登場価格を上回っちゃうという地獄の時期も存在したりもしますし(笑)、
2009年に、ダイヤルデザインを変え、タキメーターを外しパワーリザーブが伸びた「1815クロノグラフ」がカタログに復帰した際には、機能が改良されているにもかかわらず、(リーマンショックという急激な経済変化を挟んだ結果)なんと2007年のディスコン時よりもお安い、4,180,000円(税抜)という、実質的な値下げ状態で再登場するという、もうランゲの価格体系がメチャクチャ大混乱していた時期があったりするのです。
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※新旧の1815クロノグラフ。ちなみに、新1815クロノのキャリバー番号はL951.5でした。ん? ということは枝番「.2」、「.3」、「.4」は何処へ??(笑)。


ま、そのあたりのことまで反映させる方法を考えると複雑すぎて頭が痛くなるので(笑)、
とりあえずの計算として、ここまで求めてきた数字の2005年ヴァージョンと2007年ヴァージョンの範囲、つまり、
①+②=2,030,000円 + ③550,000円 =2,580,000円 ~ ①+②=2,800,000円 + ③550,000円 =3,350,000円

この範囲内であれば問題なく妥当な感じで、あとは2007年以降の為替だの物価だの貴金属相場(やっかいなことにPT相場は2008年に高騰し金の2倍以上に達するも、2012年に今度は金の高騰で立場が逆転、一時は金より安くなるという現象が生まれたりもする)だのといった数字をどう読むかということになりますでしょうか・・・



では、2014年4月からの
「ダトグラフUp&Down・PT」の新定価8,460,000円(税抜) と 「1815クロノグラフ」の新定価4,800,000円(税抜)


その 価格差=3,660,000円!!



うーん、その誤差約30万…物価上昇を加味すると…微妙~~~!!!!! 
・・・ま、納得できない価格差というわけではない・・・という感じで・・・・????
ご理解いただけましたでしょうか?


(追記)
ちなみに、過去4回の価格改定時の「ダトグラフU&D」と「1815クロノ」の価格差は以下の通りです。
2012年春 ¥3,060,000、 2012年秋 ¥3,260,000、 2013年春 ¥3,170,000、 2013秋 ¥3,350,000 

みごとに2005~2007年の理想範囲内に! とくに2013年秋とか、上限値ジャストです!!





えーと、今回はご質問が「価格差」でしたので、このような結果と相成りましたが、
例えば2005年の「ダトグラフPT」の価格 5,950,000(税抜)円と、2014年の「ダトグラフUp&Down」の価格 8,460,000(税抜)円の差額、約250万円が妥当かどうかなど、視点を変えたならば、まだまだ熱い論議ができるのではないでしょうか。






このような視点からの記事を書くキッカケを与えてくださったポールさんに感謝いたします。
ごこれが質問のお答えになっていれば、幸いなんですが・・・(笑)。
改めまして、ほんとうにありがとうございました!





















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Commented by tw at 2014-03-04 09:24 x
証明問題の模範解答みたいでとてもすっきりしました。30万の誤差は物価
人件費上昇とブランド価値の向上と考えれば、納得(?)
…むむぅ
Commented by a-ls at 2014-03-04 10:51
twさん ありがとうございます。
ほんとはこれをランゲの基軸通貨であるユーロでやると、為替変動を考えなくて済むなど、もっと確実なところが出るんでしょうけれども、資料的にむずかしく、この10年最も変動幅の大きかった「¥」で比較せざるを得なかったところに、ちょっと矛盾点など出てしまうと思われます・・・。
Commented by ポール at 2014-03-04 12:16 x
質問を記事にしていただいてビックリしました!数値で説明してくださっているのでとても分かりやすく、また納得致しました。本当にありがとうございます!

ダトグラフは人気だからプレミアムの様なものを上乗せしているのではないかと思っていたのですが、意外とそうでは無かったのですね。

今までランゲのクロノといえばダトグラフという感じで、1815クロノはそれに比べ印象が薄かったのですが、個人的には裏から見たムーブメントの綺麗さはほぼ違いが判らないので、素材やデイト表示、パワリザにそれほどこだわりがなければ、1815クロノという選択肢も大いにあるのだなと感じました。
Commented by a-ls at 2014-03-04 16:44
ポールさん こちらこそ示唆に富んだご質問ありがとうございました!
わたくしも1815クロノは名機と思っております。特にあのプッシュボタンの押し味の小気味良さは堪らないです(笑)!
ですから、1815クロノという選択肢(特に価格改定前)は大いにアリだと思います!!
Commented by ポール at 2014-03-04 23:28 x
ふと興味が湧いてパテックのWGとPTの価格差を調べてみると、大体約140万〜220万の範囲でした。そしてケースが大きそうなモデルほどその価格差に開きがあったので、ランゲの素材価格差は妥当なものだろうと感じました。
このような視点から腕時計の価格を考えるのもおもしろいですね。
Commented by a-ls at 2014-03-05 00:34
ポールさん ご調査ごくろうさまです!
貴金属の使用量によりますから、どうやらそのあたりが妥当な価格差のようですね。
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by a-ls | 2014-03-04 00:29 | ランゲ&ゾーネ | Trackback | Comments(6)